コラム

思いを言葉で伝える

「どうしたの?」泣いている事に気付いた友達がA君に声を掛けてくれています。
「・・・」「いやなことがあったの?」「・・・」、反応がありません。(4歳男児)
近くにいる先生が、様子を察して「○○だったの?」と聞いてあげると、「うん」とうなづきますが、すっきりとしない表情です。

また、折り紙遊びをしているときに、グループ毎に容器に入った糊がテーブルに用意されているのですが、友達が使った後に遠くの方に容器が移ってしまい、自分も使いたいのに言い出せないでいる。「ぼくも使いたいから貸してって言うんだよ」「みんなで使うから真ん中に置いてよと言っていいんだよ」と大人に助けてもらって、「ぼくも使いたい」と小声で言う。

自分の思いや意志、気持ちを、言葉で表現することが苦手なお子様の姿が気になります。発達の違いや個人差はあるのは当然ですが、大人から声を掛けてもらう、やってもらうことを待っている、受け身の姿勢が目立つように思えるのです。

「○○したい」「いやだ」「ねえ、○○できないからやって」「ぼくが使っていたんだよ、順番だよ」と自分の意思表示が相手に伝わるようにできる事は、安心して生活をするために大切な事です。思いを伝えられないと不安が重なり、心の中が晴れない状態がつづくために自発的に行動することもできません。

特に幼児は周囲の状況を判断して、自分で行動に移せる子にして就学を迎えられるようにしたいと考えています。大人の都合で指示や命令をするのではなく、「周りを見て考えてみよう」「どうしたらいいかな」と周囲の状況を自分で感じて、考えて行動できるように声かけをすることを大切にしています。

自分の気持ちをどのように表したら良いのかもわからない年齢の子ども達ですから、その都度、状況に合わせた応対の積み重ねが必要です。指示や命令で従わせるのではなく、自分で考えて判断する、また行動する機会をなるべく多く作って行き、考えられたときや言えたとき、行動に移せた時には褒めてあげる、その積み重ねが大切なようです。

「櫻」園長 若山 剛
(「櫻」おひさま 2025年7月号より抜粋)

“そうだね、アリさん、いたい痛いだって”

園庭での事です。アリを見つけて “ありさんいた、ありさんいた” と喜んで眺めている2歳の子に呼ばれて、“いたね~” と一緒にしゃがんで眺めていると、走ってきた別の2歳の子が端からアリを踏み潰して回る場面がありました。

“あらあら可愛そう” と私が言うと “踏んだらダメ、痛いよ、可愛そう” と一緒にいた子が叫びました。

“そうだね、アリさん、いたい痛いだって” “やさしく見てあげてね” と言うと “うん” と言って受け入れてくれたようでした。

日常よく見かける場面ですね。

「可愛そうだからやめて!」「アリさんお化けで出てくるよ」と子に怒鳴っているお母さんの姿を見かけたこともあります。その場でつい言いたくなる気持ちもわかります。

ただ、小さいから、まだわからないから…ではなく、些細なことでも敢えて言葉にして伝える、思いを子と共感する機会をもつことも大切だと思ったのです。

その翌日も同じような場面があり遠目に見ていましたが、アリを見つけて喜んでいる子を横目に昨日と同じように踏み潰して走り回っている子の姿がありました。“あら、あら…” と思いましたが、今回は声を掛けませんでした。

難しいですね。アリにも命がある、踏んだら可愛そう…、でも子どもにとっては動くアリにねらいを定めて足をあげて踏むことも遊び…???。知らず知らずに踏んでしまうことはあっても、“わざと踏んだら可愛そうだね”と伝えて行きたいですね。

「櫻」園長 若山 剛
(「櫻」おひさま 2025年6月号より抜粋)

伝言

3歳児Eちゃん

「〇〇へやの??コン・・・?」 「あのね・・・、すずしくするの、あついから」きっとエアコンをつけてほしいことの伝言を頼まれ、事務所にやってきたのでしょう。使い慣れない言葉に戸惑い、 一生懸命に考え、自分の言葉で伝えてくれました。

4歳児T君

「コピーしてください」
「何枚するの?」
「えーと、えーと、」指で数えています。
「先生には何枚って言われたのかな?」
「あのね、〇〇君と〇〇ちゃんと・・・」一緒に遁んでいるお友達を思い浮かべながら、 必要枚数を考えながら数えていました。

毎日のようにお子様たちは何かしら担任に頼まれ、お手伝いとして事務所にやってきます。頼まれたことを意気揚々と伝言に来るお子様たちです。先生が言った言築を呪文のように繰り返しながら、そのままの言葉を必死に伝えようとするお子様、今回の事例のように頼まれた事柄を自分なりに理解し、自分の言葉で伝えようとするお子様、みんな真剣さはそれぞれです。不安なうちはお友達と一緒に来て声にするお子様もいます。

”頼まれたことを自分の言葉で伝える” ”人の役に立つ喜びを感じる” 日常でのこのような些細な経験が、自信となり、覚える力、考える力に繋がっていきます。たくさん経験させてあげたいですね。

副園長 若山 望
(「櫻」おひさま 2025年7月号から抜粋)

“子どもの心”の理解を深める

保育園で生活をするお子様達は、自分の思いを言葉で伝えることがまだまだ難しい年齢です。0歳児の赤ちゃんだけでなく、言葉を使うようになった幼児部のお子様でも、自分の気持ちを上手に言葉で伝えたり、相手に状況を説明するなど、言葉を使ってコミュニケーションを取りながら生活することは難しいものです。

子どもの気持ちがよく分からずに大人が戸惑い悩んでしまったり、また、子ども同士がうまく思いを伝えられずに、お友達と喧嘩になってしまうのも当然ですよね。子どもの思いを理解し受け止め共感したり、時には気持ちに寄り添いながら言い聞かせるなど、“子どもの心” を感じながら子どもの身になり考えていく生活は、子育てのコツとも言えます。そして共感してもらえた心の基盤が、今後の心の成長の糧となっていくようです。

1歳児R君

お母さんとの離れ際からしばらく泣いてしまうR君。玩具に誘ったり遊び出せるような担任達の工夫は、逆に泣きが強くなり受け入れてくれません。抱っこをしてもらっていると安心するようなので暫くそうすることに…、すると泣かずに周囲を見るようになってきました。’‘抱っこ’’という安心スペースが遊びへの関心に心を向けてきたようです。眠る・食べる・抱っこしてもらう、3つの安心材料が基盤となり、最近では自ら歩いて関心のある玩具を取りに行ったり、時折笑顔もみせてくれるようになってきました。

お子様達の仕草や目線・表情・会話・行動などから感じる“子どもの心”をお伝えしたり、ご家庭で感じられた姿もお知らせ頂きながら、皆様と一緒に“子どもの心”の理解を深めていきたいと思います。

副園長 若山 望
(「櫻」おひさま 2025年5月号から抜粋)

叱るより、褒めることで人は育つ

“叱るより、褒めることで人は育つ”と先人の言葉が多くありますが、子育てもまさにその通りです。成長したことを褒めて自信を持たせ、次のステップにつなげていく、そして頑張ったことをまた褒めて、喜びや意欲を膨らませていく、その繰り返しです。

ただ、躾なければならない時もあります。わかってほしいこと、伝えたいことを言い聞かせ、愛情をもって心配する、気持ちを繰り返し伝えていくことが大切です。

「できないと学校にいけないよ」「これじゃ赤ちゃん組のままだよ」など親御さんの不安や感情を子どもに向けるやり方は、子どもの心をいじけさせるだけでなく、不安を抱かせることにつながり、良い解決や結果にならない事は経験からもおわかりと思います。

特に就学を控えたお子様達の中には、期待と不安が入り交じった複雑な思いを持っているお子様も少なくないはずです。「大丈夫だよ」 「考えてできたね」 「支度ができて偉いね」と“これでいいんだ” “ボクを(わたしを)見ていてくれている” “大事に思ってくれている” と感じられるように言葉がけをしたり、褒める機会を、敢えて作ってあげると良いでしょう。

ひとりひとりの成長のスピードは違います。周囲の子と比較したり、できていないことばかりに目が向きがちですが、少しでも変化のあったところ、成長したところに目を向け、その芽を大切に育てるつもりで、ほめたり励ましてあげられると、お子様も安心して力を発揮することができるでしょう。

「櫻」園長 若山 剛
(「櫻」おひさま 2025年1月号より抜粋)

少し自信ないことも乗り越えて

4歳児Aちゃん

ガーゼで頬を冷やしながら事務所にやってきたNちゃん。後ろから泣きながら担任と一緒にAちゃんが入ってきました。二人の様子をみていると喧嘩をしたような様子ではありません。担任がいろいろと尋ねても「ちがう!わかんない!」と泣きながら怒るばかりです。「そうなのか~、じゃあどうしたの?」「わかんない!」「〇〇なの?」「ちがう!」しばらく続いた後に、「やだったの!」急につぶやきました。
どうやらAちゃんにとっては少し自信のないフープくぐりゲームに自らやってみようと参加し、頑張ったにもかかわらずフープがNちゃんに当たって負けてしまったことが悲しかったようです。大人の声掛けをきちんと聴き自分の気持ちに向き合い、泣きながらではありましたが、最後は自ら伝えられたことが一つの自信となったのでしょう、今まではお友達と一緒に事務所への伝言やお手伝いに来ていたのですが、最近は一人で意気揚々とやってきます!私があえて違う質問しても「違うよ。〇〇!」と堂々と返答します。

5歳児Yちゃん、3歳児H君

「〇部屋の暖房消してください」Yちゃんが小声でH君にささやきます。「〇へや、けって」H君、Yちゃんはクスツと笑い再度耳元でささやきます。それでもH君の言葉は変わりません。それでもYちゃんが言ってしまうのではなく、最後までH君に言わせてあげようとする姿に感動しました。

少し自信のないことでも”やってみよう” ”言ってみよう”とする勇気、一年間一緒に過ごしてきた3歳児の子どもの成長を私たち大人と共に喜ぶ5歳児、微笑ましくまた頼もしく感じたエピソードでした。

お子様達の年間の成長は著しいものです!この環境に感謝しながら、今後も励みたいと思います。

副園長 若山 望
(「櫻」おひさま 2025年3月号から抜粋)

思うようにいかなくても…

「〇〇したいの!〇〇しない!」叫び続けるT君。
「・・・・・・・」ずっと黙り込むMちゃん。
「エーン!ギャー!」泣き怒るSちゃん。
わけもなく走り回っているA君…

子ども達は自分の思うようにならない事があると、その子に出来る精一杯の方法でその思いを表現しています。こんな姿を見かけるとまずは周囲の状況を確認し、様子を見ます。そして「どうしたの?」と心配している私の気持ちを伝えてみます。4・5歳児くらいになるときちんと言葉で伝えてくれる子もいますが、分かりにくいことも多々あります。やりたかった気持ち、嫌だった気持ちに共感したり、時にはただ傍に一緒にいるだけなど、寄り添っているうちに徐々に気持ちが落ち着き話し始める子もいます。納得がいかず怒り続ける場合にはじっくりと問いたり、担任やクラスの様子など状況確認することもありますが、ほとんどは「思うようにいかないことはわかっているけれど」ということが多いようです。最後は「えらかったね!今度〇〇しようね」「うん」と切り替え気持ちが変わっていきます。泣いたり怒ったり走り回ったりしながらも時間の経過の中で自分の気持ちに折り合いをつけているようです。

生き生きと過ごす3学期、このように感じる場面が多くあります。‘‘子どもを信じ自分の気持ちには自分で折り合いをつけられるよう見守っていく” 大人の姿勢が大切なのでしょうね。

副園長 若山 望
(「櫻」おひさま 2025年2月号から抜粋)

子ども達だけで解決できる

新年、あけましておめでとうございます。

“日本の社会が人々に温かく、一人ひとりが安心して心穏やかに過ごせる暮らしを願う”
今年も祈願してきました。

毎年感じることですが、この年末年始の休み明けのお子様たちは、心も身体も大きく成長し、頼もしく思います。

休み明けの6日 月曜日、少し寒そうにしながらも久しぶりの園庭をお友達と楽しそうに走り回る5歳児。「本当に怒っているんだから!もう!」強い口調が気になり、様子をみていました。すると、少し離れた所に3~4人の5歳児がいて、そのうちの一人と言い合いをしているようでした。その子も周囲の友達に「仲間に入れてあげようよ!」「〇〇だからさあ~!」と言われ暫くやり取りが続いたようですが、納得がいったのかみんなで避びだしました。その後、新たに「仲間入れて~!」「うん!いいよ~」と6~7人のグループとなり、鬼避びになっていきました。負けん気の強い子、調整が上手な子、それぞれが意見を交わし、大人の介入は一切なく解決し遊び始める就学前の子ども達のたくましい姿に、新年早々子どもの素晴らしさ、この仕事のやりがいを実感させて頂きました。

真っすぐに心温かく生きるお子様達、私たち大人こそそんな姿を見習っていきたいものです。今年も多くのお子様達からたくさんの学びを得られる日々に感謝しながら、保育園が安心して生活できる場所であり続けることに、職員たちと一緒に努力を重ねていきたいと思います。

副園長 若山 望
(「櫻」おひさま 2025年1月号から抜粋)

火遊びにならないように!

冬の季節が到来し、晴天の日が多くなった反面、空気の乾燥が気になる日も増えました。ニュースでは火災の報道もあり気になっています。

子ども達への安全教育の一環として、昨年度までは七夕飾りのお焚き上げ、秋には落ち葉を使っての焼き芋と安全を確保した上で、園庭で直火を子ども達に見せる機会があり、その時を利用して火の怖さ、炎の怖さを伝えて来ました。

実際にライターの火を見せ、「この小さな火はフッと息を掛けると消えるね」「でもこの小さな火を七夕飾りにつけると…」「ほら、大きな炎になり、吹いても消えない」「どんどんと火が大きくなるね」「これがもしお家の中で起きると火事になる」「だから、ライターやマッチ、チャッカマンなど火がつくものは触ってはいけないよ」「使うときには大人と一緒にね」というような話しをしていました。

ただ、昨今では煙や臭いが地域に迷惑を掛ける等、諸事情により七夕飾りのお焚き上げ、落ち葉を使っての焼き芋など煙が多く発生する催しは今年から控えています。

よって、数年来、実体験からの火の怖さを子ども達に伝えて来たことが、今年はできていないことが気になっておりました。

調理器具がIHのご家庭では、直火を使うことがないご家庭もあることでしょう。

敢えて乳幼児期に火の怖さを伝える必要があるかは、ご家庭でお考えがあると思いますが、怖さを知らないだけに、身近に火気を発生するライターやマッチなどの危険物があると興味本位で触ってしまう可能性もあります。

身近な環境整備をするのは大人の役割です。特に危険が伴うものには注意が必要です。「触っちゃだめ!」と叱る前に、触って欲しくないもの、火気に限らず危険な物は片付けておくか、怖さを言い聞かせ触らない約束をすることも良いでしょう。ファンヒーター、ガスコンロ等の火傷にも十分にお気を付け下さい。

最後になりましたが、今年も一年間、皆様にご協力を頂きありがとうございました。
来年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。

「櫻」園長 若山 剛
(「櫻」おひさま 2024年12月号より抜粋)

「わかってはいるけど…」

子様たちは遊戯や表現遊びなど、保育室の中はもちろん、園庭でも学年問わずに楽しんでいます。音楽がなるとすぐに踊りだしたり、その姿を見て身体を揺らして楽しむ乳児のお子様達、狼が出てくる表現あそびが始まるとクラスに関係なく逃げたり隠れたり・・・。とても微笑ましい光景を多く見かけます。

3歳児 H君

2階のテラスから塗り絵が一枚ヒラヒラと1階テラスに落ちてきました。その後、激しい泣き声が続き、どうしたのかな?と心配していると、しばらくして担任と一緒に塗り絵を拾いに降りてきました。玩具で遊んでいた時にお友達と喧嘩になり、気持ちを切り替え、塗り絵を始めたばかりに片付けの時間となってしまい、投げてしまったとのことでした。もちろんどこまで塗ったら終わりにするかなど、いつもは自分自身が決めて片付けているので、担任もその姿に驚き対応しても怒るばかりだったとのことでした。担任とのやり取りの後、ようやく気持ちを切り替え、取りにきたそうです。

いろいろな気持ちが重なり、自分でも自分の気持ちに折り合いがつけられなくなってしまったのでしょう。

日ごろ周囲の状況などを受け止め、しっかりしているお子様ほどこのような姿を現すことがあります。 “わかってはいるけど…’’ 小さなお子様が家族と離れる時に、泣きながらも担任に手を伸ばす姿があります。子どもなりに ‘‘わかってはいるけれど、自分の気持ちと葛藤している” そんな健気な姿は、お子様たちの心の成長に大きく繋がっていくのであろうと感じています。

副園長 若山 望
(「櫻」おひさま 2024年12月号から抜粋)