「子どもに手伝いをさせよう」

「ティッシュペーパー1枚ください」と言って園庭から事務所に入ってきたさくら組の女の子、鼻水が出ているのかと「はいわかりました、どうぞ」といってティッシュボックスからティッシュペーパーを一枚とって手渡しました。でも釈然としない表情をしています。「どうした?ちがうの?」と聞くと「うん、ちがう!」「こういうのって先生が…」と手で四角い形を作って訴えてきました。「あっ、ポケットティッシュかな」と言うと「うん、そうそう」と言うので、「わかりました、ポケットティッシュ一個だね、お手伝いありがとう」といって手渡しました。

保育園ではこのような場面は日常茶飯事です。少しのお手伝いも生活経験の一つだからです。頼まれた内容を理解して、覚えて、行動、相手に伝える、そして頼まれたことを実行する。お子様たちにとってはドキドキすることもあるでしょう。でもお手伝いを終えた後は、「ありがとう」と喜ばれ、相手に伝えられた事、行動した事は、お子様たちにとっては心が満たされ、自信が付く大切な経験の機会でもあるのです。

幼児のお子様はすすんでお手伝いしてくれるご家庭もあると思います。「自分の事もできないのにお手伝いなんて…」「逆に散らかる…」といった声も聞いたことがありますが、家族の一員としてできることをお手伝いをさせることで、喜ばれたり誉められるという経験を積み重ねると、自分から手伝いをするきっかけとなり、様々な場面で育ちの好循環をつくっていくことにもつながると思うのです。

園長 若山 剛
(「櫻」つくしんぼ・そよかぜ 2022年11月号より抜粋)

味覚が育つ大切な時期だから

先日、調理室から“今年はサンマを献立に入れられますか?”と相談がありました。“魚屋さんからは、今年は型が小さく一尾700円程すると言われています”とのこと。“秋の味覚だから味合わせてあげたいけどね・・・”と話しました。

随分前の事です。夕方のお迎えの際、階段下に置いてある、お子様たちが昼食と午後食で食べたものを展示するケースの前で、子ども(2歳)とお父様が一緒に、「きょうはなに食べたんだ?」と立ち寄っていました。「おっ、サンマか旨そうだな!」と。

ちょうど近くを通りかかった私は「お帰りなさい、今日はサンマを食べたんだよね、美味しかったね」と声を掛けました。「良いもの食べてますね~」とお父さん。

「時期ですからね、あぶらものって美味しかったですよ」「骨は自分でとるんですか?」「幼児は自分でよけて食べますが、○○ちゃんのクラスは大人がとってあげてるかな」「へえーそうなんだ」「それでこの緑の切ってあるやつは?」と聞くので、「これはカボスですよ」と伝えると、「えっ!こんなに小さいうちからサンマにカボスをチュッと絞って食べてるんですか?」と驚いて聞かれるので、「そうですよ、美味しかったよね○○ちゃん」と応えると、「うん、おいしかった」と嬉しそうな○○ちゃん。

「へえ-っ贅沢だね…」とお父さん。幼いから…、わからないだろう…ではなく、味覚が育っている大切なこの時期だからこそ、本物の味を味わう経験が大事ということを付け加えて話すと、「そうなんだ、なるほどね、ありがとうございます」と感心しておられたことを思い出します。

昨年に引き続き今年もサンマの不漁、価格の高騰もあり見通しが持てない状況ですが、手配ができればなんとか味合わせてあげたいと、担任も調理室も思っているようです。現段階では、知人の紹介で地元の漁師さんにお願い出来るかも知れないとの情報は入っているのですが、漁獲量が少ないことから手に入るかどうかわからないとの事でした。なんとか“秋の味覚を食べさせてあげたい”と模索しているところです。

「櫻」園長 若山 剛
(「櫻」つくしんぼ・そよかぜ 2022年10月号より抜粋)

“なぜ汗をかくのか…”

先日の幼児部の朝会で、お子様達にお話しをしました。

「暑いときに皮膚から出てくるものは?」と聞くと、「汗」と応えてくれました。

「そう、汗だよね。暑いといっぱい汗をかくよね。それではなんで汗はでるのでしょう?」ときくと、“あついから”“みずを飲むから”と応えは様々でした。

「汗はね、身体を冷やすために出てくるんだよ」と話すと、“そうなの!”と少し真剣な表情になり、『汗をかいたときにフーって息を吹きかけてごらん、少し冷たくなるでしょ…汗を乾かすときに身体の熱を取ってくれるんだって』と、発汗して体温を下げている身体の仕組みを話しました。

また、汗をかいて水分が外に出てしまうことから、水分をとること、食事をしっかりとることの必要性、身体を守るために午睡が必要なことも合わせて話をしました。

自分の身体の健康管理を意識すること、幼いから、わからないからと大人が管理するのではなく、子が承知して生活することの大切さを伝えたいのです。

0歳児、1歳児でも、「いたいね、お薬ぬろうね、ここにぬってもいい?」と聞いて、「うん」と頷いてから薬をぬれば泣かないでできることも、大人の都合でぬると大泣きして嫌がること、ご家庭でも経験があるのではないでしょうか。

経験や思考力や判断力が未熟ですから、大人の見守りが必要なことは当然です。ただ、大切な事は承知して行動すること、大人が指示支配をするのではなく、一緒に考えて行動する習慣を幼いうちから付けることが大切なのではないでしょうか。

登園後、園庭で遊んでいる子ども達を見ていると、自然と木陰を選んで遊んでいるようです。大人が言葉にしたわけでもないのに、木陰の方が涼しいと言うことを感覚的に感じて、行動、判断しているお子様たちです。すごいですね。

「櫻」園長 若山 剛
(「櫻」つくしんぼ・そよかぜ 2022年7月号より抜粋)

大人の都合の “安全第一” ?

先月は幼児部の遠足がありました。天候に恵まれいずれも予定通り実施することができ良い経験ができました。登園時間やおにぎりなどご協力に感謝致します。

昨今、遠足先で感じることですが、安全への配慮、自然保護の観点で来園者に注意を促す表示が多くなっているように思います。「球技は禁止」「対象は○歳以上」、「転落危険、のぼらない!」「危険、あそばない」「指はさみに注意」等々様々な表示がされています。(お父様、お母様が育った幼少期よりも過剰になっていると思いませんか?)

事故や怪我があると管理者責任を問われる、近隣からのクレームへの対応等、やむを得ない対応なのでしょう。事故防止の観点から、また必要に迫られて管理者が表示を勧めることは当然で、理解できます。

規模は違いますが保育園の園庭遊具でも一定の制限を皆で共有しています。

ただ気になるのは、安全第一という理由で、過剰に制限を加えることは、危険への想像や判断能力を養う機会を奪い、危険を回避する身のこなしや加減といった身体の調整力が育つ機会も奪ってしまうことにもつながるのではないかと言うことです。

危険への回避ができない乳幼児期は、見守りと制限が必要なことは言うまでもありませんが、スリルやバランス感覚を楽しむ姿はこの時期からあり、楽しみながら安全な身のこなしを養っているのです。

野山北公園で、3歳くらいの男の子が賢明にアスレチック遊具の棟に登ろうと挑戦しているとき、「大丈夫?、落っこちないでね」「降りる?」と下から子を見上げている若いお父さんの姿を見たことがあります。少し小柄だったので“落下したら…”と心配に思いながら見上げていたのでしょう。

不安ながらも“もう少し、もう少し”と腕と足の力を入れ、手のひらで手すりをしっかりとつかんではいますが、下を見る余裕はなく表情は今にも泣き出しそうでした。

その後の展開は敢えて記しませんが、お父様、お母様だったらどうしますか?

過保護過干渉と言いますが、過ぎる保護と過ぎる干渉が、様々な経験を通して育つ本来の個の育ちにどのような影響を与えるのかを、親、周囲の大人は子の育ちを見極めてさじ加減をしていかなければならないと思うのです。

園長 若山 剛
(「櫻」つくしんぼ・そよかぜ 2022年6月号より抜粋)

じっくり取り組む喜び

「ねえ見て…」と自分が書いた絵を見せにきてくれる子ども達、得意気な表情を浮かべています。“上手だね、よく見て描いたんだね、すごい!” “丁寧に色を塗ったね” “元気いっぱいだね” などと応えると少し照れながら満足して部屋に戻っていきます。

空き箱や廃材を使っての製作あそびでも、様々な工夫があるようです。

こんなふうに作りたい!、イメージは広がっているのでしょう。でも “うまくいかない” “どうしたらできるかな…” と試行錯誤していく中で、“もうやらない” “これでいいや” と気持ちを切り替える事もありますが、“どうしても思っているようにしたい” と強い意志を持って取り組む子もいます。

「ここに付けるには何で付けたらいいの?」大人に聞きながら試行錯誤しながらじっくりと取り組み、何とか自分の思う形に近づけようと頑張る姿、思うようにできた達成感と満足した表情は、子ども達の成長を感じると同時に3学期ならではの姿を感じます。

じっくり取り組む姿は造形遊びだけではありません。コマ回しでヒモをコマに巻き付けるのに一苦労です。力を入れると崩れてしまい上手く巻けません。加減をしながら何とか巻き付け深呼吸、いよいよ姿勢をとってコマを投げますが…、上手く回りません。

「惜しいね、もう少し」と大人に声を掛けられ、気を取り直してまたやり直し、根気強く何度も挑戦する子どもたち。けなげな姿に何とかしてあげたいと大人が手を添えて回わせた時は少し嬉しそうでしたが満足はできないようです。その後も一人で真剣に取り組む姿は、「回せるようになりたい!」と自分の力で成長のステップを登ろうとしているようで逞しさを感じます。いまも応援を続けています。

「櫻」園長 若山 剛

(「櫻」つくしんぼ・そよかぜ 2022年2月号より抜粋)