「ティッシュください」

園庭から入る事務所前のテラスに2歳児の子ども達3名が一生懸命に靴を脱いでいます。担任はもちろん、大人が誰もいないので、どうしたのかな?とみていると、「ティッシュください」と一人の子が入ってきました。次に入ってきた子が続けて「ティッシュ3こください」、そしてもう一人入ってきました。

「ひとりずつあげればいいのかな?」というと「うん!」。その後、ティッシュを下に置いたり、ポケットにしまったり、それぞれが大切にしながら自ら靴を履き、園庭に向かっていきました。しかし、一人は別の方向に、二人は1歳児の担任の所に向かっていきます。

1歳児の担任から頼まれたのかな? なぜ一人は別の方向に向かってしまったのかな? なぜ3個?… 私の頭の中で疑問が残り、1歳児の担任が事務所に来た時に聞いてみました。急にやってきて「ティッシュとってくるからもってて!」とフラフープを預けられたとのこと、ティッシュを受け取りつつその担任も “?” となっていたとのことでした。

結局は誰が頼んだのか? どうしてフラフープをわざわざ預けたのか? 分からず仕舞いでしたが、ここに子ども達の世界の思考を感じました。お手伝いが大好き、頼まれたお友達が羨ましく自分も行きたい、競えば喧嘩になる、気持ちよくもらうには人数分、遊んでいた遊具を他の子どもに使われてしまうのは嫌…、子ども達との生活の中にいる私は勝手に様々な事が浮かんできました。

決していざこざになることは無く、満3歳を過ぎた子ども達が、今までの数々の経験から自ら考え、友達と交わしていくこの姿に感動しました。正解も間違えもない一見意味の分からないこの行動ですが、このような子ども達の時間・世界を守っていきたいと感じた朝のエピソードでした。

副園長 若山 望
(「櫻」おひさま 2025年12月号から抜粋)

“自分でやろう!”と思ったときは何でもできる!

10月より入園したY君。入園後まもなく開催される秋の運動会への参加は、無理をせずに当日まで様子をみてから判断しようと相談をしていました。慣れない生活です、不安があって当然なので、種目に関する活動は本人の意思を第一に、「やってみようと思ったらやろう!」と担任と相談をしてきたようです。

“かけっこ” や “何でも挑戦” は見通しももちやすかったのか、比較的早い頃から一緒に参加していました。“マスゲーム” に関してはやはり参加は難しく、音楽を流す職員と一緒に見ていることが多かったY君、運動会前日の日のことです。「のぞみせんせいがきたらやる!」と園長先生に話していたようで、最初から最後までお友達の姿を見ながら一生懸命に、そして嬉しそうに参加していました。そのY君の意欲は、お友達の心も動かしたのでしょう。隊形移動の際には「Yくんここだよ」と教えてくれたり、Y君の移動が遅れると待ってくれたり…、まさにばら組みんなが友達を気遣い、心を一つにして見せてくれたマスゲームでした。

理事長の言葉「“自分でやろう!”と思ったときは何でもできる!出来なかった時は“やろう!”っていう気持ちになれなかった時だね」(白樺の運動会閉会式でお話されていました)、この一例はまさに前者の光景です。“自分でやりたい” “ちょっとドキドキするけどやってみよう!”とお子様たちが自らその気で動いている時には、多少上手くいかなくても、自分でなんとかしようと必死に取り組んでいるようにみえます。

子ども達が自らやろうとしていることを見守り、意欲を引き出す魅力的な環境やかかわりの工夫を、担任達と共に今後も重ねていきたいと思います。

副園長 若山 望
(「櫻」おひさま 2025年11月号から抜粋)

親子で気持ちの受け入れ合いを重ねながら

先月は2学期がスタートしたものの猛暑が続き、引き続き暑さ対策を続けながらの保育展開を心がけていきました。中旬過ぎからは園庭で遊ぶ時間も長くなったり、エアコンを使用しないで過ごせる日もあり、ようやく園外保育や戸外での運動遊びを取り入れることが出来るようになりました。

お子様たちの日々の成長は身体のみならず心も成長しています。我が子の心の成長を実感、素敵なエピソードが届きましたので、お知らせしたいと思います。

1歳児 Hちゃん(連絡帳より)

昨日はHちゃんの成長を感じることがありました。お風呂に入るまでは毎度のこと時間がかかり大変ですが、入ったら入ったで遊びたくて「ふえ~ん!」と泣きます。しかし、「もっと遊びたかったね」「楽しかったよね」と共感すると気持ちも落ち着き「お風呂でる?」「うんっ!」とすぐに切り替え。「切り替えられてえらかったね!すごい(手拍子)!」とほめてあげると、満面の笑みで抱きついてきました。大人でも切り替えるのは難しい…でも頑張る子どもの姿にすごいなあ~。と感心でした。

1か月前あたりに「我が子が言うことを聞かない!共感してあげたい気持ちもあるが時間もないし…」と戸惑われていたHちゃんのご両親。連絡帳内での相談後、まずは子の思いに共感、そして親の思いも伝えていきながら親子で気持ちの受け入れ合いを重ねながら温めてきた関係性が伝わります。

我が子の切り替えの姿から大人の姿を振り返り、子どもからの学びとして捉えられているところがさらに素敵に感じました。子育てはいつでも親子で成長ですね。

副園長 若山 望
(「櫻」おひさま 2025年10月号から抜粋)

僕はシャワーにする!

年々増加する猛暑日、保育園での生活も室内で過ごす時間が多くなりました。朝のうちの気温が上がり過ぎてはいない時間(うさぎ組からばら組のお子様たちは登園から1時間程度、りす・こあら組のお子様は少し保育室で過ごした後30分~40分程度)、園庭で虫取りなどをしながら存分に汗をかいて遊び、その後プール遊びや水遊び・シャワーなどで汗を流し、さっぱりとしてから昼食を食べ、お昼寝…。

室温や水分補給に気を配りながらも、生涯を健康に過ごすための身体作りをしているこの乳幼児期のお子様たちにとっての夏の生活としては、健康的に過ごせたのではないかと思います。中には夏の疲れからか体調を崩すお子様もみられましたが、感染症が大きく広がることなく過ごすことが出来ました。皆様のご理解ご協力に大変感謝しております。

5歳児R君

前日に身体に痛みがあり受診、たいしたことはなく登園しましたが、看護師と相談したところ、プールへの入水は控えておこうかということになりました。納得がいかず返事をしないでいたR君、「プールの中で楽しく遊びながらお友達とぶつかるとまた痛くなるかもしれないからやめた方が良いかな?ってお話だから、少しだけ入って上がることにする?」と話すことで納得、保育室に向かいました。大人間で入水方法を打ち合わせし、いざプールの時間になると「僕はシャワーにする!」と自ら判断しプールへの入水はしませんでした。

“子どもが自ら考えて判断する” “納得し自分で決めること” とても大切ですね。大人は「え?さっきと言ってることが違う?」と感じてしまいますが、このようにあれこれと言い聞かされた後や、分かってはいるけど主張の方が強くなってしまっていた時などに、子ども自身が再度よく考え直し判断することがあります。

大人に言われてするかしないかを決めることよりもずっと大切なことですよね!

副園長 若山 望
(「櫻」おひさま 2025年9月号から抜粋)

伝言

3歳児Eちゃん

「〇〇へやの??コン・・・?」 「あのね・・・、すずしくするの、あついから」きっとエアコンをつけてほしいことの伝言を頼まれ、事務所にやってきたのでしょう。使い慣れない言葉に戸惑い、 一生懸命に考え、自分の言葉で伝えてくれました。

4歳児T君

「コピーしてください」
「何枚するの?」
「えーと、えーと、」指で数えています。
「先生には何枚って言われたのかな?」
「あのね、〇〇君と〇〇ちゃんと・・・」一緒に遊んでいるお友達を思い浮かべながら、 必要枚数を考えながら数えていました。

毎日のようにお子様たちは何かしら担任に頼まれ、お手伝いとして事務所にやってきます。頼まれたことを意気揚々と伝言に来るお子様たちです。先生が言った言築を呪文のように繰り返しながら、そのままの言葉を必死に伝えようとするお子様、今回の事例のように頼まれた事柄を自分なりに理解し、自分の言葉で伝えようとするお子様、みんな真剣さはそれぞれです。不安なうちはお友達と一緒に来て声にするお子様もいます。

”頼まれたことを自分の言葉で伝える” ”人の役に立つ喜びを感じる” 日常でのこのような些細な経験が、自信となり、覚える力、考える力に繋がっていきます。たくさん経験させてあげたいですね。

副園長 若山 望
(「櫻」おひさま 2025年7月号から抜粋)

“子どもの心”の理解を深める

保育園で生活をするお子様達は、自分の思いを言葉で伝えることがまだまだ難しい年齢です。0歳児の赤ちゃんだけでなく、言葉を使うようになった幼児部のお子様でも、自分の気持ちを上手に言葉で伝えたり、相手に状況を説明するなど、言葉を使ってコミュニケーションを取りながら生活することは難しいものです。

子どもの気持ちがよく分からずに大人が戸惑い悩んでしまったり、また、子ども同士がうまく思いを伝えられずに、お友達と喧嘩になってしまうのも当然ですよね。子どもの思いを理解し受け止め共感したり、時には気持ちに寄り添いながら言い聞かせるなど、“子どもの心” を感じながら子どもの身になり考えていく生活は、子育てのコツとも言えます。そして共感してもらえた心の基盤が、今後の心の成長の糧となっていくようです。

1歳児R君

お母さんとの離れ際からしばらく泣いてしまうR君。玩具に誘ったり遊び出せるような担任達の工夫は、逆に泣きが強くなり受け入れてくれません。抱っこをしてもらっていると安心するようなので暫くそうすることに…、すると泣かずに周囲を見るようになってきました。’‘抱っこ’’という安心スペースが遊びへの関心に心を向けてきたようです。眠る・食べる・抱っこしてもらう、3つの安心材料が基盤となり、最近では自ら歩いて関心のある玩具を取りに行ったり、時折笑顔もみせてくれるようになってきました。

お子様達の仕草や目線・表情・会話・行動などから感じる“子どもの心”をお伝えしたり、ご家庭で感じられた姿もお知らせ頂きながら、皆様と一緒に“子どもの心”の理解を深めていきたいと思います。

副園長 若山 望
(「櫻」おひさま 2025年5月号から抜粋)

少し自信ないことも乗り越えて

4歳児Aちゃん

ガーゼで頬を冷やしながら事務所にやってきたNちゃん。後ろから泣きながら担任と一緒にAちゃんが入ってきました。二人の様子をみていると喧嘩をしたような様子ではありません。担任がいろいろと尋ねても「ちがう!わかんない!」と泣きながら怒るばかりです。「そうなのか~、じゃあどうしたの?」「わかんない!」「〇〇なの?」「ちがう!」しばらく続いた後に、「やだったの!」急につぶやきました。
どうやらAちゃんにとっては少し自信のないフープくぐりゲームに自らやってみようと参加し、頑張ったにもかかわらずフープがNちゃんに当たって負けてしまったことが悲しかったようです。大人の声掛けをきちんと聴き自分の気持ちに向き合い、泣きながらではありましたが、最後は自ら伝えられたことが一つの自信となったのでしょう、今まではお友達と一緒に事務所への伝言やお手伝いに来ていたのですが、最近は一人で意気揚々とやってきます!私があえて違う質問しても「違うよ。〇〇!」と堂々と返答します。

5歳児Yちゃん、3歳児H君

「〇部屋の暖房消してください」Yちゃんが小声でH君にささやきます。「〇へや、けって」H君、Yちゃんはクスツと笑い再度耳元でささやきます。それでもH君の言葉は変わりません。それでもYちゃんが言ってしまうのではなく、最後までH君に言わせてあげようとする姿に感動しました。

少し自信のないことでも”やってみよう” ”言ってみよう”とする勇気、一年間一緒に過ごしてきた3歳児の子どもの成長を私たち大人と共に喜ぶ5歳児、微笑ましくまた頼もしく感じたエピソードでした。

お子様達の年間の成長は著しいものです!この環境に感謝しながら、今後も励みたいと思います。

副園長 若山 望
(「櫻」おひさま 2025年3月号から抜粋)

思うようにいかなくても…

「〇〇したいの!〇〇しない!」叫び続けるT君。
「・・・・・・・」ずっと黙り込むMちゃん。
「エーン!ギャー!」泣き怒るSちゃん。
わけもなく走り回っているA君…

子ども達は自分の思うようにならない事があると、その子に出来る精一杯の方法でその思いを表現しています。こんな姿を見かけるとまずは周囲の状況を確認し、様子を見ます。そして「どうしたの?」と心配している私の気持ちを伝えてみます。4・5歳児くらいになるときちんと言葉で伝えてくれる子もいますが、分かりにくいことも多々あります。やりたかった気持ち、嫌だった気持ちに共感したり、時にはただ傍に一緒にいるだけなど、寄り添っているうちに徐々に気持ちが落ち着き話し始める子もいます。納得がいかず怒り続ける場合にはじっくりと問いたり、担任やクラスの様子など状況確認することもありますが、ほとんどは「思うようにいかないことはわかっているけれど」ということが多いようです。最後は「えらかったね!今度〇〇しようね」「うん」と切り替え気持ちが変わっていきます。泣いたり怒ったり走り回ったりしながらも時間の経過の中で自分の気持ちに折り合いをつけているようです。

生き生きと過ごす3学期、このように感じる場面が多くあります。‘‘子どもを信じ自分の気持ちには自分で折り合いをつけられるよう見守っていく” 大人の姿勢が大切なのでしょうね。

副園長 若山 望
(「櫻」おひさま 2025年2月号から抜粋)

子ども達だけで解決できる

新年、あけましておめでとうございます。

“日本の社会が人々に温かく、一人ひとりが安心して心穏やかに過ごせる暮らしを願う”
今年も祈願してきました。

毎年感じることですが、この年末年始の休み明けのお子様たちは、心も身体も大きく成長し、頼もしく思います。

休み明けの6日 月曜日、少し寒そうにしながらも久しぶりの園庭をお友達と楽しそうに走り回る5歳児。「本当に怒っているんだから!もう!」強い口調が気になり、様子をみていました。すると、少し離れた所に3~4人の5歳児がいて、そのうちの一人と言い合いをしているようでした。その子も周囲の友達に「仲間に入れてあげようよ!」「〇〇だからさあ~!」と言われ暫くやり取りが続いたようですが、納得がいったのかみんなで避びだしました。その後、新たに「仲間入れて~!」「うん!いいよ~」と6~7人のグループとなり、鬼避びになっていきました。負けん気の強い子、調整が上手な子、それぞれが意見を交わし、大人の介入は一切なく解決し遊び始める就学前の子ども達のたくましい姿に、新年早々子どもの素晴らしさ、この仕事のやりがいを実感させて頂きました。

真っすぐに心温かく生きるお子様達、私たち大人こそそんな姿を見習っていきたいものです。今年も多くのお子様達からたくさんの学びを得られる日々に感謝しながら、保育園が安心して生活できる場所であり続けることに、職員たちと一緒に努力を重ねていきたいと思います。

副園長 若山 望
(「櫻」おひさま 2025年1月号から抜粋)

「わかってはいるけど…」

子様たちは遊戯や表現遊びなど、保育室の中はもちろん、園庭でも学年問わずに楽しんでいます。音楽がなるとすぐに踊りだしたり、その姿を見て身体を揺らして楽しむ乳児のお子様達、狼が出てくる表現あそびが始まるとクラスに関係なく逃げたり隠れたり・・・。とても微笑ましい光景を多く見かけます。

3歳児 H君

2階のテラスから塗り絵が一枚ヒラヒラと1階テラスに落ちてきました。その後、激しい泣き声が続き、どうしたのかな?と心配していると、しばらくして担任と一緒に塗り絵を拾いに降りてきました。玩具で遊んでいた時にお友達と喧嘩になり、気持ちを切り替え、塗り絵を始めたばかりに片付けの時間となってしまい、投げてしまったとのことでした。もちろんどこまで塗ったら終わりにするかなど、いつもは自分自身が決めて片付けているので、担任もその姿に驚き対応しても怒るばかりだったとのことでした。担任とのやり取りの後、ようやく気持ちを切り替え、取りにきたそうです。

いろいろな気持ちが重なり、自分でも自分の気持ちに折り合いがつけられなくなってしまったのでしょう。

日ごろ周囲の状況などを受け止め、しっかりしているお子様ほどこのような姿を現すことがあります。 “わかってはいるけど…’’ 小さなお子様が家族と離れる時に、泣きながらも担任に手を伸ばす姿があります。子どもなりに ‘‘わかってはいるけれど、自分の気持ちと葛藤している” そんな健気な姿は、お子様たちの心の成長に大きく繋がっていくのであろうと感じています。

副園長 若山 望
(「櫻」おひさま 2024年12月号から抜粋)